種目別決勝も終わり、世界体操2011が終わってしまいました。
すでにかなり前のことのようですが、男子個人総合決勝を会場で観戦したので、その感想など。
■素晴らしかった会場の雰囲気
団体の決勝はものすごく緊迫した空気で、日本チームの演技を会場中が緊張して見守るという感じでしたが、個人総合はどの選手でもよい演技が出れば歓声が上がり、演技終了時には惜しみない拍手が送られていて、とてもよい雰囲気でした。
この日のポイントは何と言っても内村が3連覇を達成できるか。
そして山室がメダルを取れるか。
山室は予選から本当に安定していて調子がよさそうだったので、得意のつり輪、跳馬で得点を伸ばし、ほかの種目は実施を重視してE得点を積み重ねれば、メダルの可能性も十分あると思っていました。
メダル争いのライバルとしては、全米王者のダネル・リーバ、予選2位のジョン・オロスコ。
そして昨年の世界選手権、個人総合で内村に次ぐ銀メダルとエレガンス賞のフィリップ・ボイ。
このあたりだろうという予想でした。
■早くも”無敵感”を漂わせる王者
まず床とあん馬の2種目を終えた時点で内村が早々とトップに。
この時点でのトップはもう異常です(笑)。
現在の採点方式では跳馬が一番得点を稼ぎやすいので、普通なら跳馬を終えたグループの選手が上位に入ってくるものです。
逆にあん馬は得点を稼ぎにくい種目なのですが、内村はそこでも個人総合出場選手中トップの15.400。
続くつり輪でも着地をピタリと決め、この辺りからいつもの”無敵感”が漂い始めました。
こうなるともう心配ないという感じで、会場の興味はどんな圧勝劇を見せてくれるのかというところに。
■今大会最高の集中を見せるフィリップ・ボイ
山室は得意のつり輪で15.125(予選では15.533)とあまり得点を伸ばせず、9位という位置で4種目目の跳馬へ。
まず内村がシューフェルト(伸身ユルチェンコ2回半ひねり)を跳んで着地をピタリ。
その余韻で会場が少しザワザワしている中で、今度はフィリップ・ボイがローチェの着地をピタリと決め、会場がさらに湧きました。
得点は16.066.
ボイは直前のウォーミングアップでも尻もちをついていたので、ちょっと調子が悪いのかな?と思っていた中での見事な着地だったので、驚きました。
そしてそのままトイレに・・・。おちゃめなところも人気の所以でしょうか。
山室はロペスの着地でライン減点(-0.1)がありましたが、大きな跳躍でボイと同じ16.066を出し、2位という好位置に。
しかし、残る平行棒と鉄棒はあまり得意ではなく、Dスコアもそれほど高くないので、ここからどれだけ粘れるかという感じでした。
■山室、粘りの演技
ここからの山室の集中力は素晴らしかったです。
平行棒でも、力強い丁寧な演技で14.966(予選は14.066)。
今まで見た山室の平行棒の中でも、一番の出来ではないかと思いました。
本人も
「4種目目の跳馬が終わって、一度気持ちをリセットしようと思っていた」
と語っていたので、メンタルのコントロールがうまくいったのだと思います。
この結果、2位をキープしたまま最終種目の鉄棒へ。
鉄棒ではフィリップ・ボイが伸身コールマン(G難度)などを豪快に決め、着地もピタリの素晴らしい演技(16.066)。
これを目の前で見せつけられた山室には、プレッシャーがかかったと思います。
ボイとの得点差も15.141と、予選の14.533を伸ばさなければ勝てない計算。
今まではこういったときにすこし演技がガチャつくイメージがあったのですが、この日の山室は、一つ一つの技を丁寧にこなして素晴らしい演技。
演技後の満足そうな表情が、本人の手ごたえを物語っています。
結果、ボイには追いつけませんでしたが、14.866と予選より得点を伸ばして内村を含む3人を残して2位につけました。
そして最後は、完全に独走状態に入っていた内村の圧巻の演技。
前々日の団体決勝で落下したコバチもしっかりと決め、会場の歓声がひときわ大きくなる中、吸いつくような見事な着地で3連覇をきめました。
着地を決めた瞬間は、本当に地鳴りのような歓声が沸き起こり、自分も鳥肌がたちました。
そして会場内は、スタンディングオベーションで無敵の王者をたたえていました。
■同い年のライバルの存在
今回の試合を通して、内村と山室の2人の関係性が随所で見てとれました。
山室にとっては、高校時代までは勝ったり負けたりのライバルだった内村が、体操史上でもまれにみる強さを持つチャンピオンになったことはうれしくもあり、くやしくもあるではないかと思います。
それでも内村が鉄棒で着地を決めた瞬間、山室は自分のことのようにコーチとハイタッチをして喜んでいました。
それを見たとき、この2人は本当に“切磋琢磨”できるいい関係なのだなと感じました。
内村にとっても、長年ライバルと認めてきた山室が同じ世界の舞台に上がってきたことはとてもうれしいく、心強いのではないかと思います。
また、山室が内村と競える存在になったことは、日本代表チームにとってもとても意味のあることです。
■3連覇とエレガンス賞
エレガンス賞は優勝者以外の選手から選ばれるのが通例ですが、内村が選ばれました。
「演技の優雅さが認められたということがうれしい」
と言っていましたが、腕時計好きの内村のことなので、ロンジンの時計をもらえたこともかなり嬉しかったんじゃないでしょうか。
山室も時計好きだったはずなので、羨ましがっているかもしれません(笑)。
この2人がこの先もいいライバル関係を保っていければ、ロンドン五輪の個人総合でのワンツーフィニッシュもあるのではないかと思います。
ぜひ期待したいですね!