男子団体決勝が終わりました。
すでに多くの報道でご存知の方も多いと思いますが、日本は中国と2.068点差の銀メダル。
今回会場(アリーナ席の最前列!)で観戦したので、会場で気づいたことなど交えつつ。
前半の床から4種目目の跳馬までの流れはほぼ理想通り。
会場は完全なホーム状態で、日本選手の演技には大きな歓声と拍手が送られていました。
小林があん馬で落下しましたが、これは想定の範囲内かと。
この時点ではまだ選手たちにも余裕があり、「ここから挽回していこう」という雰囲気が見て取れました。
5種目目の平行棒から田中和仁、佑典の田中兄弟が登場。
試合の終盤から登場して来るというのは、試合の流れに乗るという意味では難しいものがあると思います。
また、田中佑典は今回が初の世界大会でもあり、予選では物怖じしない演技を見せていましたが、あの床のアクシデント後の演技ということで、けがの具合など不安要素はかなりあったと思います。
そのような状況を観客も理解し、会場全体が緊張しているような雰囲気のなか、2人とも丁寧な演技で役割をきっちりとはたしていました。
そして最終種目の鉄棒。
演技に入る時点ですでに演技を終えたアメリカとの差は44.097。
床の演技を残す中国との差は0.609。
ここで計算が働いたのは間違いないでしょう。
予選の通りの点数を出せばアメリカには勝てる。(予選では田中和14.800 田中佑15.600 内村15.533)
それでも中国には予選の床でトップの得点(15.700)を出しているズー・カイがいるから、かなり僅差になるだろう。
いずれにせよ、落下(1.0の減点)が出た時点で、金の可能性が限りなく遠のくことは間違いない。
一人目の田中和は、落下のリスクを回避するため離れ技のコールマン実施せず、E得点を重視して着地もピタリ。
結果狙い通りに15.141と、予選より得点を伸ばしました。
次に登場するのは弟の田中佑典。
演技を終えた田中和が弟にタッチをするときに何かを言っていました。
試合後田中佑典は「何かを言われたけど、覚えていない」とコメントしていましたが、おそらく「頼むぞ」というようなことを言ったのではと思います。
そしてコバチでの落下。
得点は14.266.
この時点で、すでに床の演技を終えていた中国との点差は16.768。
この点差は、内村の現在の演技構成では、完璧にこなしたとしても追いつけない数字。
この瞬間、金メダルを逃したことを確信した内村の、予選からずっと保ち続けていた緊張の糸が切れてしまったのではないかと思います。
そして田中佑典と同じコバチでの落下。
もう一度コバチを実施して成功させ、最後は着地をピタリと決めて見せたところにチャンピオンの意地を見ました。
結果、銅のアメリカと0.01差での銀。
内村が意地で決めた着地は、ものすごく意味のあるものだったのです。
■垣間見えた温度差
試合終了後選手が引き上げていくとき、内村は客席を一度も見ようとしませんでした。
内村が高校生のころから見ていますが、ここまで悔しさをあからさまに表現した姿は初めて。
それほど今回の団体にはかけていたんだと思います。
田中佑典が試合後のコメントで、「銀でもうれしい」というようなことを言っていました。
これは兄和仁の「去年の自分を見ているようだ」というコメントに対して、強がりで言っているとも取れますが、あえて厳しい言い方をするのであれば、「銀でもうれしい」と言っているようでは、「金メダルをとらなければ国に帰れない」と思っているような中国に勝てるわけがないと思います。
それほど、中国チームの気迫はすさまじいものがありました。
予選よりD得点をあげてきたうえに、ミスらしいミスはほぼゼロ。
とくに接戦になってきた後半の鉄棒、床の勝負強さは眼を見張るものがありました。
そして、今回の代表チームの中で、中国と同じぐらいのテンションで金メダルに執着していたのは、内村だけだったように見えました。
このチーム内での微妙な温度差は、今回の結果を象徴しているような気がします。
■チームの雰囲気も素晴らしかったアメリカ
また、報道では「日本代表中国に続く銀メダル!」となっていますが、銅メダルのアメリカとは点差が0.01しかありません。
会場の雰囲気としては、鉄棒で2人落下した時点で、「あ、これはアメリカにも追いつけずに銅メダルだろう」という空気が広がっていました。
最後の内村の得点が出たとき、「あれ?アメリカに勝ったみたい?!」というちょっとびっくりしたぐらいの感じでした。
冨田コーチも「3度の落下があって2位になれたのは奇跡」というコメントを残しています。
実際アメリカの出来は素晴らしかったです。
今まではホートンというエースが一人で引っ張っている印象でしたが、個人総合予選2位のジョン・オロズコの演技は素晴らしかった。
そして、演技をしている選手をチームメート全員が応援していて、いいチームだなと思いました。
特に団体ではあん馬のみに出場していたアレクサンダー・ナダールは、ほかの選手の演技中ずっと大声で声援を送っていて、ナイスガイでした。
さて、団体での金メダルはロンドン五輪にお預けということですが、もう一度中国に勝つにはどうすべきか、作戦を立て直す必要があるのではと感じました。
そのあたりの考察も今後してみたいと思います。
とりあえず選手の皆さんはお疲れ様でした。
そしてやっぱりムチャクチャくやしー!!